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ラブ・ネバー・ダイ(Love Never Dies)感想

      2016/01/05

ラブ・ネバー・ダイ

「どうもオペラ座の怪人には続きがあるらしい」
というわけでDVD「Love Never Dies」を仕入れました。
メルボルンで開演された舞台を録画したもので、映画ではありません。
感想です。ネタバレします。


まず、ネタバレではない感想です。
メルボルンで開演された舞台の録画DVDで、舞台は小さめです。上手に空間を使っているなとは思いますが、小さな舞台なのでいかんせん、「一室で全て済ませてる」感じがしてしまいます。映画「オペラ座の怪人」のようなスペックを期待して観てはいけません。

役者はファントムとしてロンドン公演での25周年記念公演でも好演をした(らしい)Ben Lewis。明らかに映画「オペラ座の怪人」のGerard Butlerよりも歌唱技術は高かった。しかしながら、声の質で「甘さ」は負けているようにも感じましたよ。
クリスティーヌ役はAnna O’Byrne、ほぼすっぴん(もしくはナチュラルメイク時)では美人ですが、がっつり舞台メイクをすると付け睫毛のつけすぎで目がつぶらになっちゃうある意味逆奇跡の人。

曲は素晴らしかったと思います。流石です。繰り返しフレーズを効果的に使うのはA.L.ウェーバーならではでしょうね。前作同様に効果的で印象的な曲が多い。
ストーリーの感想を述べるなら、腹を切れ。
「オペラ座の怪人」では読者の想像に委ねられる部分が多かったと思いますが、それらはことごとく結論が出ます。同時に、オペラ座の怪人ではあまり見えなかった人の裏側の部分が露骨に表現されます。ちょっと「Love Never Dies」、愛は不滅の一言で片づけられないレベルです。

ただ、個人的にはその露骨さはおもしろかった。
ストーリーは「全てをぶち壊しな駄作」ですが、その上で動く人の心理は楽しめました。
でも、お勧めするかしないかでいったら、しないな。

なお、「ファントム一発逆転満塁ホームラン」的な評価がされがちの作品ですが、実際には「ファントム一発逆転満塁ホームラン、と思いきやバッターボックスから足がはみ出ていたのでルール違反でアウト」って感じです。

ここからはネタバレですので、当然のことながら「ネタバレが嫌な人」は読まない方がよいかと存じます。また、この感想は以下の方には不向きです。ご注意ください。

クリスティーヌとラウルが幸せになってよかった!と思う方
・ラウルは男らしいと思う方

逆に、以下の方にはオススメです。

・クリスティーヌはただのビ×チではないかと前々から思ってる方
・ラウルはヘタレだと前々から思っている方
・久米田康治先生の言うところの「起承転結そして闇」を知りたい方

では、アフィリエイトシールド。




以下はネタバレです。読んで泣かないこと。

パリのオペラ座が謎の失火により消失してから10年。
ファントムはジリー母娘の手助けを受けてマンハッタンの近場リゾート、コニーアイランドにある見世物小屋で生計を立てていました。
ラブ・ネバー・ダイ

この母娘、めっちゃ献身的過ぎです。
もはや執念だな。
ラブ・ネバー・ダイ

そんな折り、新聞に記事が載ります。
なんとクリスティーヌがマンハッタンのオペラ座のこけら落としの舞台に立つとのこと。

ジリー母であるマダムジリーは愚痴を娘にこぼします。
誰が苦労して彼を逃がし、誰が彼を保護し、誰が彼のために生計を立てられるようにして、誰がこの10年支えてきたのか。クリスティーヌではないだろう。むしろクリスティーヌは富と名声とイケメンに転んでファントムの恩と愛を裏切ってトンズラしたじゃないか、今更なんでマンハッタンに出向いて来るんだ。

まったく一字一句その通りですね。
ぐうの音も出ません。

でもクリスティーヌとラウル、そして息子のグスタフはマンハッタンへやってきます。そしてファントムはこのチャンスを逃しません。
なんとか自分の書いた曲をまた歌って欲しい。その一念で策を講じます。
ラブ・ネバー・ダイ
ところでラウルはすっかりダメ男になっていました。才能あるクリスティーヌを引退させて隠したものの、何をやっても当たらず財産は食い潰し、酒とギャンブルに溺れて借金にまみれ、見栄だけを張る日々。
本格的にヘタレの王道を走りますが、負い目があるのかクリスティーヌはおとなしく従っています。

ラブ・ネバー・ダイ
しかしながらクリスティーヌも肝心なところで自分勝手になるビッチぶりは健在。ファントムと再開したらやっぱり愛していたとかほざきますし、前作で行方不明になっていた間にちゃっかりやることやってたこともご披露。
わかっていたけど、知りたくなかったその事実。
起承転結そして闇。

ラブ・ネバー・ダイ
で、ファントムはなんだかんだ、ラウルも釣りあげ息子も懐柔して自分の歌をコニーアイランドで歌わせる段取りを組むことに成功します。

ラブ・ネバー・ダイ
その策略のおかげで、ジリー母娘とラウル一家は久しぶりに再会。お互い腹の中を隠しながら再会を懐かしみます。
マダムジリーはファントムが恩を忘れてクリスティーヌに走るのではと気が気ではありません。
娘のメグは今まで尽くして頑張ってきて、今回ようやくファントムに振り向いてもらえる上にブレイクできそうなチャンスが一転、クリスティーヌに美味しいところだけをさらわれる危機。
クリスティーヌはラウルに従いながらも、再び愛するファントムの曲を歌いたくてたまりません。
ラウルは自分のダメっぷりを自覚しているので、クリスティーヌをファントムに奪われてしまうのではと考えます。

なんていうか、知りたくなかったよねこんな未来。
起承転結そして闇。

なんだかんだ細々と思惑を絡めあいつつ、途中、息子が(やっぱり)ラウルではなくファントムの息子だなどとトンデモ事実も判明しつつ舞台は進行。

ラブ・ネバー・ダイ
ラウルとファントムは賭けで決着をつけることにします。その内容は「舞台でクリスティーヌがファントムの曲を歌うのかどうか。」というもの。
歌えばファントムの勝ちです。ラウルはひとり寂しく帰ることになります。
歌わなければラウルの勝ち。家族で帰国して借金はファントムが全て引き受けます。
借金棒引きと嫁を天秤にかけるあたり、ラウルは本当にダメ男です。ヘタレですらありません。散々苦悩してはいますけど、その選択は人としてどうなの?とちょっと疑うレベルです。

ラブ・ネバー・ダイ
最初、紅白の小林幸子かと思ったわ。
なんだかんだ選択を迫られますが、結局クリスティーヌは肝心なところで自分勝手なビッチなので朗々とファントムの曲を歌います。
ラウルの負けです。ラウルは潔くひとり退場します。

で、舞台が終わってファントムとちゅっちゅとチューします。

ラブ・ネバー・ダイ
前作にあたる映画「オペラ座の怪人」のラストシーン。爺さんになったラウルは、落札したオルゴールをクリスティーヌの墓前に置きました。その墓に刻まれていた文字は「良き妻、良き母親」。どこがだね。誰だよ、こいつの墓に「良き妻、良き母親」とか彫らせたの。後で削っておくか、もしくは後ろに(笑)とか付け足しておくといい。

散々チューした後に、楽屋に置かれていたラウルの負けを認める手紙を読み、ひとしきり後悔したりしなかったりして、そのあとにようやく二人は息子がいないことに気がつきます。

今更慌てて探し始めるふたり。

ラブ・ネバー・ダイ
息子はメグが誘拐していました。そらもう、美味しいところは全部クリスティーヌに持っていかれてしまいましたから、息子を連れていくのはやむを得ない。
息子にしてみたらいい迷惑ですが。

メグと息子は見つかり、ファントムが必死に説得します。ようやくこちらを見てもらえた!と絶叫するメグ。ほんとファントム酷い奴だな。とは言え、メグも悪人どころか献身的なタイプなので息子はおとなしく返しますが、代わりに拳銃を取り出して自殺しようとします。これもファントムは必死に説得。今までのことを詫びて反省します。

ファントムがクリスティーヌに未練たらたらなのは仕方ない。
けども、メグは振り向いてもらえない日々の中、慣れない土地で見世物小屋のスターとして献身的にファントムに愛をささげ、芸を披露して生きてきたわけです。ファントムは、それに対して何かしらは報いる必要はあったんではないかな。

で、今がそのチャンスなのです。メグに向き合うラストチャンス。自らのこめかみに銃口を当てるメグに語りかけます。

「君は自分を不快に思い、汚れたと思い、壊れたと思い、そして傷ついたと思った。でも俺は「奥底にある美しさ」を見る力がある。君は愛とプライドを奪われたと思った。無視されて捨てられたと思った。けども、俺は「奥底にある美しさ」をちゃんと知っている。」

メグはファントムの話を聞く姿勢になります。
その銃口がゆっくりと降り始めます。

「きちんと計算した光を当ててやらなければ、ダイヤモンドは一番美しく輝くことができない。美しさは、たまに見えなくなってしまうんだ。」

メグは銃口をゆっくりと降ろしました。
ファントムにようやくきちんと向き合ってもらえて、認めてもらえたのですから。

「そう、人は必ずしも全て輝きを放てるとは限らないんだ。クリスティーヌのような輝きを。

ひくっと止まるメグ。
まあ観てるこっちも「は?」と思いましたよ。
才能はともあれメグの頑張りを認めるのかと思いきや、「お前には才能はないんでございまーす」って引導渡しましたよ。この仮面。

当然ながら錯乱したメグ。ファントムと軽く揉み合いになり、銃が暴発します。
ラブ・ネバー・ダイ
流れ弾はクリスティーヌにクリティカルヒット。
ビッチ、流れ弾で死亡です。

まあ、死ぬ間際まで、肝心なところは自分勝手なビッチっぷりは発揮していました。
息子に突然「あなたの本当のお父さんはこの仮面のおっさんだから」と告げて息子をうろたえさせたり、ファントムには最後にもう一回チューしたいと言ってみたり、ラウルの名前はとうとう一度も口に出すことなくこときれます。
ラブ・ネバー・ダイ

クリスティーヌ・ダーエ
良き妻、良き母親(笑)
ここに眠る

こんな流れの、やってはならぬ決着を多々つけてしまった、続編。

とりあえず、すべからくこれ系のストーリーは「後は観劇者の解釈に委ねる」って部分があるじゃないですか。タイタニックで宝石を最後に海に投げ捨てるおばあちゃん。あのまま眠るように亡くなったのか、そうじゃないのか。それは観た人に委ねられるんですよ。インセプションで、最後にまわしたコマ。あれが止まるのか回り続けるのかは、観た人に委ねられるんですよ。投げっぱなしではなく解釈に委ねることによって、人は色々想像でストーリーをさらに膨らませるんです。

ところがですよ。

・ファントム:クリスティーヌに未練たらたら生きてました
・ジリー母娘:ファントムから見返りを得られないまま未だに尽くしてました。
・ラウル:落ちぶれてます。
・クリスティーヌ:やっぱりファントムとヤッてました。子どもの父親はファントムですひゃはー。

みんなうっすらわかっていたけど、結論出すなよ。
本当にこの一言につきます。
ストーリーが進めば進むほど、失笑せずにはいられない内容です。

で、オペラ座の怪人でファントムは本当に酷い目にあったなと私は思っているのですが、今回もやっぱり酷い目にあったなと思います。まあ、ビッチを好きになってしまったが故でしょうか。「ただ一つの過ちは、クリスティーヌへの愛だ」です。
クリスティーヌはビッチなんですけども、ただのビッチではないんです。普段は従順なくせに、肝心な時に突然自分勝手にビッチなので本当に困ります。そして「音楽に対して才能豊かな芸術家だからこそ、夫ではなく才能溢れるファントムに惹かれてしまう」とかそういう動機があるわけですが、芸術家がビッチみたいだからほんとマジやめた方がいい。オペラ座の怪人の頃からうっすらそう思ってましたが、今回はそのビッチさがスパークしてて、本当に撃たれて死んで良かったと思うんですよ。まさかの次回作で生き返ったりしないように祈ります。

最後に、息子。グスタフ。
今回の作品における一番の被害者です。
ていうか被害だけしかない。
しかしながら、お願いですから、もう彼を主役に続編とか考えないようにお願いします。

ではでは。


2015.05追記
誤字修正+読みにくい文章の修正

…及び、アイススケートの何某でこの映画の曲が使われたようで、夢いっぱいの気持ちで検索をしてサイトにたどり着いた方にはビッチビッチ連呼して申し訳なく思います。おいこらクリスティーヌあやまれ。(反省の色なし)

多分なのですが、本来は「クリスティーヌの愛を得られなかったファントムが再び頑張った。結果、一瞬クリスティーヌを得たものの、結局クリスティーヌが死んでしまうことで彼はクリスティーヌの愛を永遠に失うことになった。しかし、クリスティーヌの忘れ形見にして自分の息子であるグスタフというある意味「無償の愛」を得ることはできた。」というファントム救済ストーリーだったんだと思います。いや、観ててそんな気は全然しませんでしたが、整理した結果、もしかしたらそうかもしれないと些少に思いました。そんな可能性が無きにしも非ずくらいですが。もしこのストーリーが賞賛されるとしたら、そういった部分に焦点を当ててのことのような気がします。
でも、やっぱりオススメではない。

ではでは。

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