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よしながふみ「大奥」10巻レビュー

      2015/08/29

よしながふみ 大奥 10巻

大奥の10巻が出たのでした。
ネタバレ等多いレビュー記事です。
ネタバレの嫌な人はこの記事を読まないようにしてください。


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こんだけ間を空けておいたらきっと大丈夫だね。
では、以下ネタバレです。

9巻ではやったら田沼さんを敵視していた松平定信ですが、10巻ではほとんど出てきません。中盤に少しと、最後の方であらかた物事が片付いてからちょろっと登場します。まああからさま過ぎたのですが、定信は祖母吉宗に顔しか似ていない残念な孫で、そして悪い奴ではなかったのがやっぱり明らかになります。そして、治済は9巻でダダ漏れしている通りかそれ以上に真っ黒でした。
大奥 10巻
定信さん、治済に持ち上げられ褒められて素直に喜ぶところがかわいらしい。ただの素直で残念な子でした。悪い子じゃないよねーでもちょっとこの世界でやっていくにはねぇ…っていうアレです。

9巻から既にそうでしたが、田沼さんは実に清廉な人でした。彼女は自らの地位に固執していたのではなく、吉宗の後を継ぐ「国のための政」を行う人でした。治済の思惑にももちろん気がついていましたし、それによって自分が後に危うくなることももちろん承知の上で、治済に構うことなく政に邁進をしたのです。
田沼のそうした気持ちは、青沼にも伝わっています。青沼は赤面疱瘡を根絶する方法を突き止めることに自分のすべてを賭けます。自らの命も顧みず、ただひたすら人痘を成功させるために直向に進み続けるのです。青沼と志を同じくする仲間たちも、一緒に進みます。もちろん、平賀源内も。

しかし天は彼らに味方しません。
すべては一橋治済の思う方向へと進んでいきます。

田沼意次の聡明な娘である意知は「何者かが裏から糸を引いた結果」刺殺されてしまいます。
よしながふみ 大奥 10巻
平賀源内は、梅毒を持った男に暴行をされて梅毒にかかり、やがて病に伏してしまいます。
よしながふみ 大奥 10巻
やがて大雨や噴火といった天災に見舞われ、田沼の評判は地に墜ちます。そして、とうとう将軍が長年摂取した砒素によって命を落として、田沼は政治の舞台から降ろされてしまいます。田沼の失脚とともに、赤面疱瘡の根絶に取り組んでいた青沼たちは大奥から追い出されることに。青沼だけは死罪となります。
よしながふみ 大奥 10巻
唯一の救いは、赤面疱瘡の人痘が成功したこと。全く報われなかったわけですが、遣り遂げることだけはしたのです。それは誰からも称えられませんが、遣り遂げたわけです。
しかし、称えられることを誰も望んでいなかったにしろ、迫害されることもまた想像をしていなかったでしょう。最後に青沼と志をともにしていた黒木が雨の中、叫ぶシーンは印象的です。

ともあれ、彼らには何の救いがないままに、ともかく赤面疱瘡を根絶するための手がかりが発見されました。そして、一橋治済の思惑通り、治済の子ども、男子である豊千代が11代将軍に就くことになります。3代将軍家光以来の男子の将軍です。今後は、徐々に正史へと戻っていくのでしょうか。

そして感想です。
やっぱりよしなが先生はあれだな、すごいな。
人の心の機微を描くのがとても上手なのだなと思います。「わかっていて、しかし己よりも優先すべきものを優先する」田沼は、歴史の教科書で出てくるような汚職まみれな姿ではありません。青沼は死刑に処される時に恨み言は言いません。理不尽ですが、彼らは成し遂げたという誇りは確かに得ることができたのだと思います。それが、端々から感じ取れるよい巻です。いや、話の進行は悲しいのですが。

というわけで、今後ますます気になる大奥です。
次のコミックを楽しみに待とうと思います。

では。

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