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よしながふみ「大奥」12巻レビュー

      2015/08/30

よしながふみ「大奥」12

いつの間にか、発売されてた。
いつの間にか出てたって、前の巻の感想にも書いてあった。

ネタバレ等多いレビュー記事です。
ネタバレの嫌な人はこの記事を読まないようにしてください。


例によってすぐにネタバレが目に入らないようにするためのアフィリエイトシールドです。読む人は華麗にスルーのこと。



今回は前の巻より引き続き、11代将軍家斉の土下座から始まります。
むしろ、今回の巻が出るまで土下座しっぱなしだったわけです。

母親が自分の子どもを殺すという暴挙から、言いなりになっていてはいけないと考えた家斉。赤面疱瘡を根絶するために、かつて大奥を追放となった黒木の元へ訪れます。
ですが、黒木に「本当に母親に隠密にできるのか」と問われ、彼は自分がやらなくてはいけないことを知ります。つまり、本当に黒木たちを動かすためには、あのサイコな母親の目をかいくぐらないといけない。しかし、そんな彼と仲睦まじくしていた御台も気がふれてしまい、側室の一人お志賀は母親についてしまいます。
よしながふみ「大奥」12
ですが、彼もまた徳川の血筋なのでしょう。馬鹿ではないようで、なんとか隠密に事を進めていくべく、知恵を巡らせ、徐々に徐々に黒木たちが赤面疱瘡の予防接種を行えるように、環境を整えていきます。
よしながふみ「大奥」12
途中、伊兵衛がちょっとキレたり、さらには家斉のやっていることが母親にバレそうになりつつも、なんとかかんとか進展。治済は孫を殺すことにも簡単過ぎて飽きてしまったので、後はもう家斉がご機嫌取りで集めて来た美男を侍らせつつ、毒ご飯当てごっこをして美食三昧していますが、その裏側では家斉や黒木たちが赤面疱瘡の予防接種のための「タネ」を手に入れるために、ひたすら尽力をしています。

そして、とうとうタネが見つかりました。
黒木は息子にタネを接種して、成功しました。折しも、江戸ではまたもや赤面疱瘡が流行の兆しを見せ、黒木たちの予防接種は瞬く間に人々の知るところとなり、予防接種は大流行。そのうち、タネとなる熊も見つかり、予防接種も安定してできるような体制になりました。とうとう、田沼意次や青沼、そして平賀源内たちと目指していた夢、赤面疱瘡に打ち克つことを達成したのです。

ですが、家斉のこうした手配が、とうとう母親である治済に知れることとなります。治済は息子と御台を呼びつけ、毒殺するために毒入りの菓子をふるまいます。もちろん、その菓子に毒が入ってることをすぐに理解する家斉。やはり母親には逆らえない、もはやここまでである、と覚悟をして菓子を食べようとしましたが、その時、倒れたのは母親である治済でした。
よしながふみ「大奥」12
長い間、御台もお志賀も、我が子を殺した治済に復讐をするべく、家斉にすら黙って芝居を続けていたのです。治済は一名こそとりとめたものの、布団より起き上がれない身となりました。

さて、家斉はこの一件で、完全に目が覚めます。
今まで母の元で孤独に積み上げて来た強かさと、これからの未来を見据えたうえでの覚悟。家斉は「赤面疱瘡根絶」に本格的に取り組みます。徳川幕府の全てを用いても、民から例え恐れられるのだとしても、この国のために男子の数を元に戻す。強い信念を以て取り組み、生涯尽力することとなりました。
よしながふみ「大奥」12

結果的に赤面疱瘡は根絶され、男女比も戻ります。

家斉は息子を将軍に指名しましたが、その次、13代将軍はまた女性であることをにおわせて、今回の巻は終了です。次回は黒船が来訪してくるようです。
いよいよ、江戸時代も佳境ですね。

…という、割と大事な部分は書かずに置いたあらすじです。

家斉がどんどんと強かになる様子は、彼もまた徳川の血筋であるというのを強く感じました。同時に、彼が「母親が倒れた日」を境に、孤独に政道を進めていったのは、彼が「物事を進めるということを知った」からかもしれません。御台に長い間芝居で欺かれていたから御台を遠ざけた、のではなく、御台の孤独を見て、自分のやらなくてはいけない道を知ったような気がします。

一方、黒木や伊兵衛は大願成就な結果になりましたが、きっと心の中はとても複雑だったでしょう。かつて大名の子に接種をして副作用を起こしたことにより、最終的に青沼は斬首となりました。でも、家斉は誰が死のうが怖がろうが、全くお構いなしに、彼らがやりたかったことを強烈に進めていきます。権威というものの力です。かつては自分たちを追いやった権威が、最終的に自分たちの悲願を成就している、その権威で、今度は怖がる民をも巻き込みながら。これは私にとってもとても考えさせられる現象でした。

ちょっとじんとしたのは2つのシーン。
ひとつは、松平定信さんの「恨み事は申すまいぞ」という言葉でした。定信は失脚後、自分の所領を治めていました。予防接種をとりいれる時の、彼女のこの言葉。彼女もまた治済という深淵をのぞきこんだ一人です。いや、よい領主になってしまったようで、感慨深い。
もうひとつは、黒木が死期を悟って妻に告げた時のシーンです。
夫婦というものは、こうありたい。

他にも、いいキャラが出てきてるのですが、活躍するのは次の巻かもしれません。少し楽しみにとっておくことにします。次の巻は来年の梅雨時だそうで、また少し早くでるのを楽しみにしようと思います。では、また来年。

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