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エリザベート(2014年花組)

      2015/08/30

宝塚歌劇団2014年花組「エリザベート」

やがてオーストリア皇后となる少女を好きになってしまった死神のツンツンツンデレな物語、宝塚歌劇団花組のエリザベートを観劇してきました。


まずは史実的なお話。
エリザベートは、フランス国王ルイ16世の嫁として有名なマリー・アントワネットの母親でありハスプブルグ家最後の男系継承者にしてハンガリーの議会で子どもを抱えて熱弁をふるったマリア・テレジア(恋愛結婚、子沢山)の嫁さんです。
書いておいてなんですが、特に無関係の一言で済んでしまいそうです。

172cmの長身にしてウェスト50cm、体重も50kg。黄色く並びの悪い歯を隠しさえすれば大変な美貌で、趣味はヨーロッパや北アフリカまでに至るほどの激しい速歩。好きなものはハンガリー、嫌いなものは義務。そんな女性です。

いわゆる王家の血筋の家系に生まれ、彼女自身も王家に嫁ぎました。生活のための苦労なんてものはありませんが、ルイジ・ルケーニに襲われ命を落とすまでの彼女の人生は、孤独と苦悩に満ちたものだったのでしょう。

そんな想像から作られたのが、このミュージカル「エリザベート」です。
というわけで、これまでの話とは全く関係なく今回の上演のプログラムの表紙(の一部)をご覧いただきます。
宝塚歌劇団2014年花組「エリザベート」
ファイナルファンタジーに出ていそうなイケメンキャラですね。
宝塚花組トップスターにご就任された明日海りおさんが演じられるトート閣下です。
かつてない、てらイケメントート。
前回観劇したベルばらよりもさらに演技と歌に磨きがかかり、不動のトップスターであることを感じさせます。素晴らしい。

この演目を最後に退団される蘭乃はなさん。エリザベート役です。少女時代から刺殺されるまでのエリザベートを見事に演じきってらっしゃいます。歌も演技も余すことなく力を発揮され、同時にトート閣下とも夫である皇帝とも、それぞれを引き立てて輝かせる素晴らしい演技でした。

そして、やはりこの演目を最後に退団される桜一花さん。皇帝の母親、宮廷でたった一人の男性と称されたゾフィー皇太后を演じられています。こちらも流石に若さは隠しきれないものの、素晴らしく威厳ある皇太后でした。歌も素晴らしいな。そう言えば、エトワールは彼女だと思っていたのですが、違いました。なんでだろう。

全体的にとにかくレベルの高い演者の皆さんですが、望海風斗さんのルキーニも素晴らしかった。声に張りがありました。あと、今まで見た中でもピカイチに素晴らしくダメ僧侶だった紫峰七海さん。「呼んだことがあるのね?」と一花ゾフィーからキレのある動きで扇子を突き付けられた後の「…ちょっとだけ」はとても間が絶妙でした。

とても演者の充実した舞台だったなと思います。
時間があっという間に感じられる素晴らしい舞台でした。
以上、舞台の感想です。


以降は与太話です。
まずは、ストーリー。

この劇には狂言回しがいます。エリザベート刺殺犯のルキーニです。彼は死後もずっと死後の世界で裁判を受け、尋問され続けています。エリザベートを殺した動機、そしてその黒幕は誰だと。ルキーニは動機は「偉大なる愛」であり、黒幕は「死」だと語ります。精神錯乱を装っていると詰問されると、彼は証言者を紹介します。こうして、エリザベートの半生を語り始めるのです。

奔放に育った少女エリザベートは弟たちとサーカスごっこをして滑落。死亡。黄泉の世界へ。待っていたのは黄泉の帝王トート閣下。閣下はエリザベートに一目惚れです。おまわりさん、こいつですよ。結果、「生きてる彼女に愛されたい」と思ったトート閣下はエリザベートを生き返らせます。

育った彼女は避暑地へお出かけ。花嫁修業完璧な姉の見合いの付き添いです。相手はなんとオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ。母親たちが一生懸命セッティングした見合いなのに、皇帝はエリザベートに一目惚れしてプロポーズ。エリザベートはなんだかんだ了承します。母親たちびっくり。トート閣下もびっくり。

オーストリア皇后になったエリザベートですが、姑の嫁いびりがあったり夫がマザコンだったり、なんだかんだ確執が発生します。トートに「死ぬ?」と誘われたりもしましたが、それは拒絶。たかが小娘されど小娘には美貌という武器があったのです。牛乳とコニャック入り卵白そしてはちみつで武器を磨きまくって徹底抗戦。ハンガリーでは美貌で反乱を未然に防いで皇帝をナイスアシスト。エーヤンエーヤン。

彼女の快進撃は続きます。皇帝に「母と妻どちらを選ぶのか」と最後通牒。マザコン夫はとうとうエリザベートを選ぶと明言します。勝利、圧倒的勝利。ならば一緒に居てやろう、ただ私の人生は私のもの。しかし皇帝は敗北しましたが四天王の中では最弱です。まだ皇太后とトート閣下が残っています。あれ4人じゃない。まずは皇太后の反撃。目には目を、歯には歯を、美女にはデリバリーで美女を。エリザベート以上の美人をけしかければ皇帝も心変わりするだろうと美女を用意。皇帝あっさり浮気。

エリザベートは加齢と共に衰える美貌を維持するために必死です。過剰なダイエットをしたところ過労でダウン。そこにトート閣下が皇帝陛下の浮気の証拠を持参して現れます。皇帝に愛されてると信じていたのに裏切られ「生きていけない」と嘆くエリザベート。満を持してトート閣下はご進言。「死ねばいい」。でも、トート閣下には誤算がありました。エリザベートはすっかり小娘ではなくなっていたのです。「陛下が罪を犯したなら、私自由になれる!!」なんというポジティブシンキング。

エリザベートはヨーロッパ周遊放題・速歩のお遍路旅へ出発です。姑が死のうが夫が呼ぼうが家に帰りません。毎日朝から晩まで速歩です。その旅路、慰問で訪ねた病院。患者に「私こそが本物のエリザベートよ!無礼者」と叩かれます。でも彼女は怒りません。泣きません。うろたえず、笑いもせず、馬鹿にもしません。「代われるものなら代わってあげる。私の孤独に耐えられるのなら。」…凄みました。

一方ポジティブシンキング攻撃を受けたトート閣下は反撃の下準備です。皇帝政治への反乱組織に手を貸してみたり、エリザベートの息子、オーストリア皇太子ルドルフをかどわかしたり。なんやかんやあってルドルフは父親に怒られ、皇位継承も絶望的な大ピンチ。そこにエリザベートが久しぶりに帰宅します。「ママ助けて」とルドルフは父親へのとりなしを求めますが、エリザベートはさっくりと拒否。そしてルドルフは自殺します。ああ、うたかたの恋。

流石にエリザベートは後悔し深く絶望します。もう死んでもいい。トート閣下はご満悦です。いいとも、死なせてやろう。満足気にエリザベートの首に手をかけ、死のキスをしようとしましたが、突然激オコになるトート閣下、「死は逃げ場ではない!」。泣き崩れるエリザベート。仕方なく喪服を着てエリザベートは再び速歩のお遍路旅に出たのでした。

すっかり老いた夫のささやかな願いも聞き入れず、延々とどこかを目指して旅を続けるエリザベート。そしてとうとう旅路の途中で突如襲いかかってきたルキーニの凶刃に倒れます。一度はその刃を手にしていた日傘で防いだ彼女ですが、翻して再び突きだされた刃には抵抗することなく刺されたエリザベート。その瞬間、彼女は果たして「死を愛した」のでしょうか。死んだ彼女は、トート閣下と寄りそいながら永遠の世界へ旅だったのでした。おしまい。


この話はラストは実にあっけなく終わります。狂言回しをしていたルキーニが殺害するためのナイフを与えられ、とうとう舞台に立ちます。そしてエリザベートを刺すのです。で、刺殺されたエリザベートは、果たしてトート閣下、つまり「死」を愛したのでしょうか。
まあこの辺りは人それぞれ、解釈の変わるところでしょう。宝塚版エリザベートはやはり「愛」がテーマなので、トート閣下は愛されたのかなぁ。
ただ、エリザベートってそもそも死にたかったわけじゃないと思うのですよね。生きたかったわけでもなく、死にたかったわけでもなく、単に「自由になりたかった」のではないかな。生死を問わず。そういう意味では、彼女は生も死も選ばず、言いかえればフランツもトートも選ばず、生の最後まで自由を望み続け、自由を愛していたのだと、そんな風にも思うのです。

エリザベートは元々ウィーン生まれのミュージカルです。
これはオリジナルを観てみたいな。
探してみようと思います。

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